2010年9月20日月曜日

心、動かされる

私の小中高に「大野」という同級生がいました。

大野には世界的に有名な舞踏家のおじいちゃんがいて、キリスト教の学校に通っていた私たちのクリスマス礼拝に毎年だったかな?クリスマスにちなんだパフォーマンスを披露してくださっていました。

その踊りは、まだ小さい私たちには深すぎて理解できない部分が多々あったとはいえ、独特で一回見たら忘れられない程のインパクトがありました。


昨日、六本木で開催されているフォトアートの見本市「東京フォト2010」を見て回っていると、突然「大野のおじいちゃん」が目に飛び込んできました。Zen Foto Galleryという渋谷にあるギャラリーのブースで、舞踏家をテーマに写真を展示していたんですが、その作品の中の何枚かに大野のおじいちゃんが写っていました。

「大野一雄」というんだ、とこの時初めて知りました。この20年で、私はすっかりアートに関わりのある人間になっていた為、昔イメージしていた大野のおじいちゃんとは違う視点で「大野一雄」氏が被写体となった写真作品を見進めていくと、ブースの奥のほうに鼻にチューブを付けて口を開いて表情を作っている老人の顔だけの写真が突然表れました。

きっとこの方も大野氏だろうと思い、クレジットを確認すると2010年の作品、という事になっていました。私が小さい頃、既にお年を召していらっしゃったけど、この顔だけの写真から察するに、想像を遥かに超えたお年になっている事に間違いはなく、一つは、顔の回りは真っ暗で、顔だけが浮かび上がった写真、もう一つは、ベッドの上を花で飾られた、これも顔と花だけの写真。儚げなこの2つの作品に付けられた題名は「last dance」。

私がじっと見入っていると、ギャラリーの方がこの作品を撮影された写真家である池内功和さんを紹介してくださり、撮影の時の様子を教えてくださいました。

池内さんが大野氏を最期に訪れた時、すでに眼球と顔の表情筋の一部しか動かす事ができなかったそうです。しかも、撮影する目的で訪れたわけではなかったらしいのですが、撮られるのが何より好きだった大野氏は、カメラの前で、その不自由な体に臆する事なく顔だけでパフォーマンスに挑んだと言います。

池内さんは言いました。「大野さんは、義務とかそういうレベルではなく、本当に踊りが好きで最期の踊りをしてくださいました。」最期までああして好きな舞踏を続けて来れた事は、はたから見ていても幸せな人生を過ごされたんじゃないかと思います、と池内さんはおっしゃっていました。

ベッドの上でのラストダンスにシャッターを向けるチャンスがあった事を、写真家として嬉しく思う、と池内さんは静かに私に言いました。


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